月ヶ瀬梅林

桜の開花宣言がちらほらと聞かれるような季節となりました。現代で花見といえば桜の鑑賞が一番に思い浮かべられると思いますが、奈良時代では梅を指していました。

梅は中国原産の花木で、「万葉集」では桜を詠んだ歌は43首に対し、梅を読んだ歌は110首。梅は桜の倍以上詠まれているのです。

 

そんな梅の花を楽しめる関西屈指の梅林があります。奈良にある月ヶ瀬梅林です。

毎年2月中旬から3月にかけて約1万本の梅が咲き誇り、あたりは甘い香りで満たされます。月ヶ瀬梅林の歴史は古く鎌倉時代中期が始まりとされています。

現代では梅の実は食用が主ですが、江戸時代には紅花染色の触媒剤として、梅の実を燻製した烏梅(うばい)の生産がこの月ヶ瀬では主要産業となっていました。米よりも高価で取引され、京都の染色業界と多く取引されていました。その当時は現在の10倍、10万本もの梅の木が栽培されていたそうです。梅の花咲く時期には、さぞかし壮大な光景が広がっていたことでしょう。

 

明治時代になり、化学染料の導入により烏梅の需要量は減少し、現在700年変わらぬ伝統製法での烏梅の製造は、この月ヶ瀬では1軒のみとなりました。

奈良の東大寺で行われる二月堂修二会で、須弥壇を飾る椿の造花も烏梅を使った紅花染色で染められた和紙が使われています。

時代の変遷で私たちの暮らしも様々に変わっていきますが、変わらないものに目を向けてみるのも面白いのではないでしょうか。